AI時代に子どもがプログラミングを学ぶ意味はある?
ChatGPTをはじめとする生成AIは、いまや簡単な言葉で指示するだけでコードを書いてくれるようになりました。
ニュースやSNSでそうした内容を目にするたびに、「これからプログラミングを子どもに習わせる意味は、まだあるのだろうか」と感じる保護者の方は少なくないはずです。
実際、「何かを完成させること」だけが目的であれば、以前のようにすべてのコードを自分の手で書く必要はなくなりつつあります。
ただし、「AIがプログラミングできるようになったこと」と「人間がプログラミングを学ぶ必要がなくなること」は、まったく別の話です。
この記事では、プログラミング教室を運営する立場からの都合のよい話ではなく、AI時代に子どもがプログラミングを学ぶことにどんな意味があるのか、できるだけ客観的に考えていきます。
実際、AIがあればプログラミングできる時代になっている
生成AIの能力は現在進行形でみるみる高まってきています。
みなさんもご存知のとおり、コードを一から書くのはもちろん、エラーの修正、機能の追加、書いたコードの意味をわかりやすく説明することまで、生成AIはすでに幅広くこなせます。
「こんなアプリを作りたい」というアイデアを言葉で伝えるだけで、簡単なアプリやWebサイトの形になって返ってくることも珍しくありません。
「AIがあっても、すべて自分の手で書けなければ意味がない」という主張は、もう無理があるということです。
大切なのは、コードを何文字自分の手で書けるかではなく、「何を作りたいのかを考え、それを実現できること」です。この前提に立った上で、それでもプログラミングを学ぶ意味がどこにあるのかを、次の章から考えていきます。
それなら、もうプログラミングを学ばなくてもいい?
とはいえ、「作れた」ことと「自分で理解して作れる」ことは、同じではありません。
AIに指示して成果物が完成しても、なぜ動いているのか、どこを変更すれば挙動が変わるのか、エラーの原因は何なのか、AIの答えは本当に正しいのか、自分の意図と違ったときにどう直せばよいのか――こうしたことが分からなければ、自分でコントロールできる範囲はかなり限られてしまいます。
問題なのは、AIを使うこと自体ではありません。考えることまでAIに任せてしまうことです。
成果物だけはどんどん高度になっていくのに、本人の理解や力はほとんど変わっていない、という状態は十分に起こり得ます。
AIに任せきりにすると、「AIが使えないと何もできない」状態にもなりかねません。
プログラミングを学ぶ価値は「コードを書くこと」だけではない
では、プログラミングを学ぶことで身につくのは、いったい何なのでしょうか。
小さな問題に分解する力

ひとつは、作りたいものを小さな問題に分解する力です。
「ゲームを作りたい」というだけでは、コンピュータは動いてくれません。
キャラクターを動かす、キー入力を受け取る、敵との接触を判定する、得点を増やす、ゲーム終了の条件を決める――というように、大きな目的を小さな処理へ分解していく必要があります。
実際の授業でも、書いたプログラムの一部がうまく動かないとき、繰り返し処理が入れ子になっている箇所をひとつずつ分解しながら原因を確認していく、という進め方をとる場面があります。
大きな不具合をそのまま抱え込むのではなく、扱える単位に切り分けていくこのプロセスが、まさに「分解する力」が使われている場面です。
物事を順序立てて考える力

もうひとつは、物事を順序立てて考える力です。
コンピュータは曖昧な指示では期待通りに動いてくれません。
「まずAをして、条件BならC、そうでなければD」というように、頭の中の考えを具体的に、筋道立てて整理し直す経験になります。
命令の並び自体は一つひとつ理解できていても、「どの順番で実行すれば意図通りに動くか」で立ち止まるといった場面が考えられます。
たとえば、決められた形にトンネルを掘る処理で、命令の内容は分かっているのに、実行する順序を組み立てる段階で苦戦していた、といったように、頭の中では分かっているつもりのことも、順序として組み立て直そうとすると難しさが出てくる、という一場面です。
一方で、作りたいものが決まってから、先に全体の形を作り、そのあとで「どの順番でコードを書いていくか」を自分で考えてから着手する、という進め方もあります。
行き当たりばったりに書き始めるのではなく、着手前に順序を組み立てようとする姿勢がうかがえる一例です。
順序立てる力は一度で身につくものではなく、「どの順番で動かせば期待通りになるか」を試行錯誤しながら少しずつ整理されていくものだと考えられます。
家庭で様子を見る際にも、答えの順番を教える前に、「どの順番でやればうまくいきそうか、自分の言葉で説明できているか」を尋ねてみるのが一つの目安になります。
エラーの原因を特定し解決する力

また、プログラミングでは失敗やエラーが起こるのが当たり前です。
予想する→試す→結果を見る→原因を考える→修正する、という試行錯誤を何度も繰り返すことになります。
この「なぜうまくいかないのかを自分で探す」経験こそ、プログラミング学習ならではのものです。
実際の授業でも、書き間違いがあった際に講師がすぐに間違い箇所を指摘するのではなく「もう一度見直してみて」とだけ伝えたところ、生徒が自分で気づいて修正できた、という場面が記録されています。
答えを先にもらうのではなく、自分で原因を探しにいく経験が、こうしたやり取りの中で生まれています。
自分のアイデアを形にする力

そして何より、頭の中にあったアイデアを、実際に動くものへと変えていく経験そのものに、大きな意味があります。
プログラミングは知識を覚えるだけの学習ではなく、自分のアイデアをゲームやアプリ、ひとつの作品として形にできる学びなのです。
実際の授業でも、決められた教材の課題にはあまり気乗りがしない一方、自分で考えたアイデアを組み合わせて作る場面になると取り組み方が変わった、というケースもあります。
教材通りに進めるだけでなく、「自分は何を作りたいか」を起点に手を動かす経験が、意欲につながる一場面としてテックチャンスの授業でも実際に起こっています。
AIは子どもの能力を「奪う道具」にも「伸ばす道具」にもなる

同じAIでも、使い方次第で子どもに与える影響は大きく変わります。
分からない問題に出会うたびに「答えを教えて」「コードを全部書いて」とAIに頼っていれば、完成までの時間は短くなるかもしれません。
しかし、その過程で本来経験するはずだった試行錯誤は、そのぶん失われてしまいます。
一方で、エラー原因のヒントをもらう、自分のコードをレビューしてもらう、分からない概念を説明してもらう、改善方法を提案してもらう、自分では思いつかなかった方法を知る――といった使い方であれば、AIは強力な学習支援ツールになります。
ポイントは、AIを使うか使わないかではなく、「どこまで自分で考え、どこからAIに任せるか」なのです。
プログラミングができる人ほど、AIを使ってできることも増える

基礎があるかどうかは、AIとの付き合い方にも大きく影響します。
AIは常に正しいコードを書くわけではありません。
基礎知識があれば、「この処理はおかしい」「もっと良い実装がある」「自分が求めている動作とは違う」と、自分の頭で判断できます。
また、AIに「作ってもらう」だけでなく、AIが生成したものを理解し、自分の意図に合わせて改造できるようになれば、AIに対する主導権が変わってきます。
自分でプログラムを書く力がある人がAIを使えば、「できなかったことをAIにやってもらう」だけでなく、「自分でもできることを、より速く、より大きく実現する」ためにAIを使えるようになるのです。
つまり、プログラミングの基礎があるほど、AIによって自分の力を何倍にも広げられるということです。
これから重要なのは「AIかプログラミングか」ではない
ここまでの話は、「AIか、プログラミングか」という二者択一の話ではありません。
これから必要になるのは、自分で考える力とプログラミング、そしてAIを組み合わせて使いこなす力です。
AIが普及するほど、「コードを暗記して大量に書く能力」の価値は、相対的に下がっていく可能性があります。
その一方で、何を作るべきか考える、問題を発見する、問題を分解する、解決方法を考える、AIへ適切に指示を出す、出てきたものを評価する、修正して完成させる――こうした能力は、むしろこれから重要になっていくはずです。
子どもにAIを使わせるなら「答えを出す機械」にしない

では、家庭で子どもとAIをどう付き合わせればよいのでしょうか。
あまり学びにつながらない使い方は、「このゲーム作って」とAIに頼み、生成されたコードをそのままコピーして、動いたら終わり、というパターンです。
一方、学びにつながる使い方は少し違います。
大切なのは
まず自分で作ってみる→うまく動かない→原因を自分なりに考える→それでも分からなければAIにヒントを求める→提案された方法を理解する→自分の手で修正する→なぜ直ったのかを確認する
という流れです。
実際に授業の現場でも、答えをそのまま教えるのではなくヒントだけを伝えたところ、それまで解決できずにいた課題を生徒が自分の力で解決できた、という実体験もあります。
これは対人環境での指導記録であり、AIとのやり取りにそのまま当てはまるとは限りませんが、「ヒントを得て、自分の手で仕上げる」という経験が学びにつながりやすい点は、AIとの付き合わせ方を考えるうえでも参考になります。
ポイントは、AIを「代わりに考えてくれる存在」としてではなく、「一緒に考えてくれる相手」として使わせることにあります。
AI時代だからこそ、プログラミング教育の目的も変わっていく

これからのプログラミング教育で大切なのは、自分のアイデアを、コンピュータとAIを使って実現できる力を育てることです。
Scratchやマインクラフトはもちろん、子どもが成長した先で触れることになるであろうツールであっても、それ自体を覚えることだけがゴールではありません。
考える→作る→失敗する→原因を探す→改善する→完成させる、という一連の経験を積み重ねることにこそ、意味があります。
まとめ|AI時代にもプログラミングを学ぶ意味はある

AIによって、コードを書くこと自体のハードルは大きく下がりました。
だからこそ、「コードをすべて自力で書けること」だけを目的にする必要はもうありません。
その一方で、AIにすべて任せてしまえば、成果物は作れても本人の理解が育たないまま、ということも起こり得ます。
プログラミングという学びを通じて、問題を分解する力、筋道立てて考える力、試行錯誤を続ける力、そしてアイデアをかたちにする経験を積めることに、これからも変わらない価値があります。
基礎があるほど、AIが生成したものを理解し、評価し、修正できるようにもなります。
これから大切なのは、「AIか、プログラミングか」という二択ではなく、両方を使いこなす力を育てることです。
最終的なメッセージは、「AIに何を作ってもらえるか」ではなく、「AIを使って自分は何を実現できるか」。
そのための土台のひとつとして、プログラミングを学ぶ意味は、これからも残り続けます。
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「AIを使って自分は何を実現できるか」
——その土台となる、考える力・試行錯誤する力は、実際に自分の手でプログラムを書き、動かしてみる経験を通して少しずつ育っていきます。
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